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2012年01月23日 (月)慢性疲労症候群 "病名を変えて!"
「慢性疲労症候群」
この名前を聞いて、皆さん、どのように感じますか?
「疲れがなかなかとれない状態」と考える方も多いのではないでしょうか。
しかし、実態は病名のイメージと違い、大変に厳しい病気です。
生活するのが困難なほど強い疲労感が半年以上続くもので、体が鉛のように重く感じて動かせなくなり、寝たきりになることもあります。国内で患者は30万人とも言われますが、原因は分かっておらず、有効な治療法も見つかっていません。
そうした深刻さが、あいまいな病名のために伝わらず、誤解や偏見を招いているとして、患者団体が病名を変えてほしいと訴えました。
【理解されない深刻な実態】
今月18日、慢性疲労症候群の患者団体が記者会見を開きました。
団体の代表、篠原三恵子さん(53)は
「慢性疲労症候群と言われると、単に疲れている病気かなと思われ、深刻な病状が理解されていない。病名を変えてほしい」と訴えました。
東京・東久留米市に住む篠原さん。母親と娘の3人暮らしです。全く歩けず、6年前からベッドで寝たきりの生活です。食事も1人ではとれず、毎日、ヘルパーや家族に身の回りの世話をしてもらっています。
篠原さんは
「自分の意志では思うように体が動きません。一時的に起き上がったり動かせたりしても、力を入れ続けることができず、その状態を保つことができません。 筆を持っても指先に力が入らない。全身が衰弱している感じです」と話していました。
症状は抑うつ不安
篠原さんが体に異常を感じたのは21年前、32歳のときでした。
ある日、 突然、強い疲労感に襲われ、関節の痛み、激しい頭痛もありました。症状は何日たっても治まりませんが、検査で異常が見つからないため、原因が分かりません。いくつもの病院を回り、専門の病院で診断された病名が「慢性疲労症候群」でした。
【病名で誤解受けて孤立】
その後、病名から来る誤解や偏見に悩み続けてきました。
友人には「休めば治る」「マッサージを受ければ」と言われ、だんだん疎遠になっていったと言います。通院できる近くの医師からも、「精神的な問題」などと言われ続けました。
篠原さんは
「いちばん傷つくのは『私もいつも疲れているのよ』とか、『私も慢性疲労症候群かしら』って言われることで、もう返すことばもないぐらいです。健康な人が感じる疲労を思い浮かべてしまえば、私たちの病気は全く理解してもらえないと思う」と話していました。
篠原さんは患者団体を作り、去年、アンケート調査を行いました。そこには深刻な患者の声がつづられていました。
「家族からも怠け者と叱り飛ばされ、家を追い出された」
「医師からは厄介(やっかい)者扱い」
患者の多くが、病気を理解されず、社会から孤立している姿が浮き彫りになりました。
【福祉サービスが受けられない】
病気の深刻さが伝わらず、必要な福祉サービスを受けられないという人もいます。
栃木県内に住む55歳の女性は、20年以上前から慢性疲労症候群の症状に苦しんできました。28歳の娘も、10年ほど前、同じ病気を発症しました。学校卒業後も就職できずにいます。
健康的な食事若い男性の体重減少
女性は、アンケートでも
「行政に相談しても、使える制度は皆無と言われました。全く公的支援が受けられません」と訴えていました。
介護ヘルパーの利用ができず、日常の家事は会社員の夫が担っています。 それでも、日中は家政婦を頼まざるをえず、月に十数万円の出費を余儀なくされています。
女性は「こんなにつらい病状を抱えながら、うちにいるのに介護も看護もされず、ずっと耐えているだけなので本当に苦しいです。精神的にも金銭的にも生きているのがつらいです」と話していました。
【医師も誤解】
医師の間でも誤解が多いといいます。
患者団体を支援している医師の申偉秀さんは、病名のあいまいさが、医師の間にも誤解を生んでいると言います。特に多いのは、会社などでの産業医の誤解だといいます。
専門医によって慢性疲労症候群と診断されても、産業医から「休めば治る」と言われ、悩んでいる患者もいるということです。
申さんは
「一部の医師は、慢性疲労症候群と言うと、また過労かと思ってしまう。過労なら業務を軽減して休ませれば治ると言ってしまう。し かし、この病気は、治ることもないわけではないが、治療法もなく、長期間治らずに無理をしてかえって症状が悪化する患者も多い。病名ゆえに誤解している医師も多い」と話しています。
篠原さんは
「病名が変わって、これが本当に単なる疲労ではなく深刻な病気だと理解され、医療関係者や行政、そして一般の方にも正しい認識が広がることを願っています」と話していました。
強力な鎮痛剤の画像
【病名の変更と病気の研究を】
この慢性疲労症候群、イギリスやカナダなど一部の国では「筋痛性脳脊髄炎」 という病名が使われています。篠原さんたち患者団体では、現在の「慢性疲労症候群をともに考える会」から、今後予定しているNPO法人化の際には、「筋痛性脳脊髄炎」を使うことにしています。
しかし、これが病状を正確に表しているかどうかは医師の間でも意見が分かれています。「炎症」があるかどうかはっきりしないケースもあるからです。
このため、篠原さんたちは、病名の変更には病気の実態や原因の究明が欠かせないとして、厚生労働省に対して研究を一層進めるよう求めています。
【取材後記】
取材を始めた当初は、私自身も「慢性疲労症候群」と聞いて、ぐったりして疲れきった人というイメージを持っていました。患者は全員が寝たきりや車いすに乗っているわけではありません。ただ、歩けるという人も、外出や仕事のあとは極度の疲労感で全く動けなくなり、ベッドで休まざるをえないといったように、症状に幅があります。
この幅の広さも、病気を理解するうえで難しさの一つだと思います。
それでも、この病気の話をすると、周りにも「自分も慢性疲労症候群だ」と話す人が大勢いました。本当に誤解が多いのがこの病気で、そうした誤解や偏見を少しでも無くすために、このニュースを伝えたいと思いました。
もう一つ重要なことは、福祉サービスの上でも多くの人が困難に直面していることです。
篠原さんが歩けなくなって障害者手帳を取るまでに2年。座った状態すらできなくなり、車椅子からストレッチャーに変更したいと申し出てから2年。篠原さんは、さまざまな活動や訴えをするなかで、何とか福祉サービスを受けています。
しかし、紹介した女性のように、障害者手帳が交付されず、福祉サービスが受けられないケースも多いのです。病名の変更、そのための研究を進めるとともに、国や自治体は、必要な人に福祉サービスが受けられる態勢を作っていくことも必要だと感じました。
【参考 診断指針】
以下は、日本疲労学会が作った慢性疲労症候群の診断指針を要約したものです。
詳しくは、厚生労働省のサイトにも掲載されています。
前提1
半年以上の原因不明の全身倦怠感に加え、慢性疲労をきたす疾患を除外
前提2
下記4項目すべてを満たす
(1)新しく発症したもので、急激に発症
(2)十分な休養をとっても回復しない
(3)仕事や生活習慣のせいではない
(4)日常の生活活動が、発症前に比べて50%以下 または、疲労感のため月に数日は社会生活や仕事ができず休んでいる
前提3
下記10項目のうち5項目以上を認める
(1)労作後の疲労感(休んでも24時間以上続く)
(2)筋肉痛
(3)多発性関節痛
(4)頭痛
(5)咽頭痛
(6)睡眠障害
(7)思考力・集中力低下
以下は医師が少なくとも1か月以上の間隔をおいて2回認める
(8)微熱
(9)頚部リンパ節腫脹(明らかに病的腫脹と考えられる場合)
(10)筋力低下
投稿者:森田拓志 | 投稿時間:06時00分
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